スキッパーキサムとお出かけ先で遊歩道に来たのだが、あまり天気がよろしくないので、他に誰もいない。
少し前までは降っていた雨の名残で、周りの木は重そうに枝葉に雨水をつけ、草はこうべを垂れていて静寂に包まれている。
映画などで見る誰もいない世界の様で、なんとも不思議な雰囲気の中、足元を濡らしながら歩く。
歩きだすと木で出来た遊歩道は場所によっては滑りやすくなっていたので、転ばないように気をつけながら足を運ぶが、スキッパーキはいつもと変わらず楽しそうに軽快に歩いていく。
天気が良ければ樹木の中に作られたのか、遊歩道の周りに木を配置したのか不明だが、まるで森林浴を楽しめるよう様な緑に囲まれたとても爽やかな場所なのだが、今はうら寂しい静けさが漂っている。
濡れている足元はあまり良いコンディションではないので、あまり奥に入り込んでも良くないと思い方向を変えて再び歩き始めたその時、動物の吠える声が聞こえた。
誰もいなく、今まで鳥の鳴く声さえなかったのに、危険だと思える吠え声が突然聞こえた事に一瞬背筋が凍る。
特に危険だと思っていなかった場所で、何が起こるのか考えて怖くなる。
未だに苦い思いが消せない某遊歩道は山道ということもあり、「熊出没注意」の看板はあったが、ここは有名な花を愛でることでも人気のある場所で危険な野生動物が出るとは聞いたことがないし、看板等もないので、安全であると思いこんでいた。
何にどう対応すればいいのかも分からないが、吠え声が何処から聞こえるのか立ち止まると、既にスキッパーキは警戒体勢をとり誰もいない木々の向こうを見つめている。
サムの表情は真剣で、耳はピンと張っている。サムが向いている方向に目を向け耳を澄ますと、遠いようではあるが、絶え間なく吠えている様だった。
その声が、段々とよく聞こえるようになり、どんどんと大きくなっていると言うことは、間違いなく近づいているという事だ。
今まで聞いたことのない吠え声。一体何だろうか?何が起こっているのだろうか?一気に緊張する。危険察知能力が高いサムに至って更に警戒態勢が数段上がったかのように、微動だにせず、にらみつけるように凝視ししている。
まさか、こんなところで危険動物に遭遇するのだろうか?何かあっても誰にも気づかれない状況に思考が負に傾く。
そんな弱気な気持ちとは裏腹にスキッパーキは臆すること無く前を向いている。小さな体で堂々と立っている。
スキッパーキはガードドッグではないから、相手に挑みに行くことは無いが、ウォッチドッグなので害をなすものを近づけないように仕事をする。
それが何処であろうと、相手が何であろうと行う。まさにサムの姿がそうだ。
人よりも優れた聴覚、嗅覚でいち早く状況を察し、サムは優しい穏やかなファミリーからスキッパーキとしての番犬に変わり体制を整えた。自分達の膝ぐらいしかない小さな体なのに恐れず立ち向かおうとしている立派な姿勢は流石スキッパーキだ。
怖いと泣きつくことも、隠れることもしない。尻尾を巻いて逃げることはせず、凛として身構えている。
かなりの速さで近づいてくる吠え声から、相手が何者なのかを推測する。対峙した時の対応、回避方法を見いださないと非常にまずいことになるかも知れない。
来るであろう何者かの可能性を考えると、野犬・・・この辺には野犬がいると聞いたこともある。
野良犬は昔いたのを見たことがあるのだが野犬は出会ったことがない。どちらにしても犬が悪いわけではない。飼い主が悪いのだ。
だが、今はそんな事どうでもよく、近づいてくるおそらく犬ではないのかと思われる動物が襲ってこないかが一番の問題。
相手が不明だが、サムには聞こえてくる吠え声と走ってくる音などで、おおよその事は察知しているのかも知れない。
いざとなったら何で戦う?