スキッパーキのサムとは一度も会う事も無く。母が逝ってしまった。
予想外の事だったが時間は戻らない。
サムを連れて行く状況ではないと思っていた事もあり、考えが及ばなかったのが悔やまれる。
スマホでサムの写真は見せた。スキッパーキというまっ黒な犬だよ。可愛いでしょう!
そう言いながら見せたが何分にもスマホ画面なので小さい。その上写真では非常に表現が難しいスキッパーキブラックだったのでよく分からなかったかも知れない。
実際にサムにあって触れて可愛がって欲しかった。
思っても、悔やんでも、もうスキッパーキと言う犬も、サムの可愛らしさも伝える事は出来ない。その事実を後悔するのにも時間がかかった。
サムは何も分からないけど側にいてくれる。抱きしめてもそのままで居てくれる。暖かい。
雨がずっと降り続いていた。サムを連れて行くわけにはいかないので、サムは一人で留守番だ。表情を読み取る能力が長けている種族だからか、スキッパーキサムは静かに見ていてくれる。そんなサムを残し家をでる。
ずっと雨が降り続いている。その雨がひとしきり強くなっている。時間だ。
分かっているが、母と言う実体が無くなる。
淡々と時間だけが止めようもなく流れ、その間雨は更に強く激しく降っていて、まるで台風の様だと空を見上げ思った。
滞りなく式が終わり、帰る時に急に雨脚が緩くなった。そう言えば移動する時もまるで見ているかのように、雨脚が弱くなったのだが、それは単なる偶然だろう。
サムの元に帰り、パソコンを立ち上げると、何やら賑やかな事になっていた。
式に出ている同じ時間、ヤフートップに、サムの飛行犬写真が長い間出ていたと聞いた。サムの事を知らない人が、まっ黒犬の飛行犬写真がカッコいいと言っていると。
え?!yahoo!に?と、リアルタイムで見る事は出来なかったが、検索したら出て来た。
間違いないサムだ!スキッパーキサムの走って飛んでいる様な飛行犬写真だ!
丁度ヤフートップに出ていた時、母との最後の別れの時間だった。
もしかしたら母はサムの飛ぶ姿を見たかも知れない。また留守番していたスキッパーキのリアルサムと会えたかも知れない。そう頭によぎった。
サムがこのタイミングで予想外に人の目に触れたのは母に見てもらうためだと思った。偶然に偶然が重なっただけ。でもそうなると偶然ではなく蓋然ではないかと思った。思いたかった。
母はサムに会ったのだと。そう思える様な事が起こったから。
サムは何か持っている。その何かはジンワリと胸の中で広がる。
スキッパーキだから成し得る事がある。サムだからできる事がある。小さくてまっ黒なスキッパーキのサムを抱きしめると、サムの暖かさで癒される。