スキッパーキサムと暫し立ち止まり様子を伺う。
間違いない。周りは山だ。見える景色は生い茂る草木だけ。道が違う。何処で道を間違えたのか分からない。今更どうしようもないので、このまま先を進むしか道は無い。
あーこういうことか、「他に道は無い」って。などと気分を変え先に進もう。サムは相変わらず可愛いつぶらな瞳で見返してくる。行こっかーサム。
スキッパーキサムは本当に感心するぐらいしっかり歩いている。歩き出すと、聞こえてくる音は、自分の足音、木々が風で触れるカサついている音。サムの足音は肉球があるせいか小さな踏みしめる音それだけだ。止まってはいけない。終わりだ。歩くしか無い。
歩けばいずれ何処かに出る!大分歩いた時、矢印が、「道しるべ」があった。どう見ても道がない方向を指している。前に見たものと同じ「北温泉と清水平」真っ直ぐ指されている所は木が生い茂り塞いだ感じで、けもの道でさえなく、人も動物も誰も通らない感じが漂っている。
道の跡形も無い。左には危なっかしいが下り階段がある。しかも手元のMAPに描かれている分かれ道。階段。と符号が一致していた。ここで降りるんだ!貰った地図通りじゃないか。時間が全く違うけど。もしかしたら、歩く速さが、普通の人よりも5倍かかっただけかもしれない。などと絶対無理な考えを浮かべ何とか良いように考えたりもした。単にそうだったらいいのになというだけだが、希望を求めた。
それに、この状況には選択の余地は無いだろう。選べる「道」が無いのだから。
そして降りるということは山を出られる可能性がある!サムもう少しだよ!とサムを見る。スキッパーキサムはいつもと変わらず傍にいる。
階段を降り始めるも直ぐに階段が階段では無くなる。元は階段であっただろう崩れた状態の荒れた坂道と化していた。下りるのも普通には下りれない。だがサムは段差があり危険な状態になって来ているのにも関わらず一緒に悪路を歩く。脚の長さ、視点の位置全てにおいて、全然違うのに人ならば文句の一つも言いたくなる様な状況なのに、いつもと変わらず泣き言(吠えも鳴きもせず)も言わず普段と同じでいる。
サムを見るとそれだけで励まされる。サムうちに来てくれてありがとう。スキッパーキのサム素晴らしい。こんな状況だからこそ有り難みが分かるサムの存在。
坂を気をつけながら下りるが、真っ直ぐ下りることは叶わない。必ず何かにしがみつく様に下りなければならない。ここで転んでしまったら恐らく軽傷では済まない。注意深く足の着く位置を選ぶ。そんな所でもサムは注意しながら一緒に降りてくる。本当にスキッパーキという犬種は素晴らしい。でも目の前に人よりも大きな岩が道を塞ぎ、下りれる所は岩の端の隙間からで、かなりの段差がある。大人でもまずいかもしれないと思った。この場所は絶対サムには無理。もし何かあったら…その事で頭が一杯になった。
「火事場の馬鹿力」という言葉がある。人間追い詰められると出来ないような事をやってのけるパワーがある。そんな大げさな事では無いのかもしれないが、サムを無事に下ろしたい。その一心でサムを抱え大岩で塞がれ1mはある複雑な段差をウォータースライダーの始まりの様に段差に体が垂直になるかの如く、ギリギリ滑り落ちる様にして足をつけた。サムは抱えられている時は微動だにせずにいた。足元を確認してサムを降ろす。良かった。岩を越えられ、無事に降りられてホッとした。それにしてもこの道は絶対遊歩道じゃない気がする。
道無き道を歩いてきて、スニーカーが痛んでいる。汚れ傷ついているどころじゃ無く、壊れそうだ。そんなに古くは無い。この悪路のせいだ。既に迷い道で2時間は歩いている。スニーカーがこの状態だからサムはきっとキツイはず。肉球履き替えることはできない。
ごめんねサム。あと少しだからね。そうは言っても一向に先は見えない。
本当に遭難か?