夜中に突然目が覚めた。意識もしっかりしており頭も冴えていて、まだまだ起きるには早すぎるようなので寝なければいけないと思っていた。
その時に「キャン」というサムの声が聞こえた。静まり返った暗闇の中はっきりと。
キャンという鳴き方は痛みに対して漏れる声だ。
サムの口から「キャン」という鳴き声を聞いたのは数えるほどで、アクシデントに見舞われるか、濡れた体を拭いている時に痛点を触ってしまった時ぐらいで、滅多なことでは聞かない鳴き声だ。
最初は空耳で、聞き間違いかと思った。ただ現実としてサムがないたのであれば、何かあったのかもしれないし、もう二度と見過ごすなどしてはいけないので、恐る恐るサムのもとに行った。
寝ているだろうと思っていたサムは、立っていた。尻尾も下がり、後ろを振り返り見ていた。
近づくと、触られるのが嫌だという風に2,3歩逃げるように歩く。辛そうな仕草が、触れないで欲しいという事を伝え、サムの纏うオーラが拒絶している。
夜中だということもあり、無理に触って余計具合が悪くなることも考えられるし、急を要する状態でもなさそうで、もしかしたら、今だけなのかもしれないと一度その場を離れることにした。
弱々しい感じのサムだったのだが、寝て起きたら元の元気なスキッパーキになるかもしれないと希望的観測を持ってその場を離れた。
朝起きた時にサムを見ると寝ていたので、寝ていた事実に、寝ることが出来たと言うことに安心してしまっていた。
いつものサムであるならば、気配を感じれば、寝ていても飛び起きてすぐに傍に来て、挨拶するはずなのに気づくことができなかった。
そして「散歩の時間」であるにもかかわらず、サムが一向に来ない事でサムがおかしいことが分かった。
何時もならば、スキッパーキの朝は、挨拶を交わし、散歩の準備をしている時も楽しげに元気にまだかまだかとはつらつとしているのだが、夜中に見たサムのままだった。
いつものサムとは全く違うサム。パワフルさは言うまでもなく元気がない。動きは鈍く、痛みを堪えているようなこわばった表情、縮こまった体を無理に動かしている感じで、当然尻尾も下がっている。
散歩に行くのも遠慮したい様だったが、用を足さねばならない行為なので、のそのそと仕方無しについていくという感じではあったがとりあえず散歩に出ることはできた。だがいつもの散歩とは全く違い、見ている方が辛くなる状態で、不安が膨れていった。
なんとか散歩から戻るも、倒れるように伏せるサム。そして、辛そうに呼吸をしながら漏れる声。
もともと動物は痛みに強いなどと言われているが、それはあくまでも態度に出さないだけで、痛いものは痛い筈。我慢強いだけ。
人間はいろいろな手立てがあるが、動物は自分たちではどうすることもできないと同時に弱みを見せたら終わりだ。
だから我慢するしかないということなのだろう。
その我慢強さを持っても態度に出てしまうという事を考えると相当に辛いものだと思う。
何とかサムの具合を良くしたい。痛みを和らげたいが、何も出来ない。ただ見ていて傍にいるだけで、何も出来ない現実を思い知らされる。
自分では何一つサムの為にサムの辛さを取ることは出来ない。情けないがどうしようもない。できることは専門家に助けてもらう事だけだ。だから弱っているサムを車に乗せ病院に向かった。